うれしかった「のれん」
伝統のあるお店の「のれん」 、のれんを分けるだとかのれんを守るとかいろんな用法
がありますが、まさにそのお店の顔。のれんをくぐって店に入るときは不思議と軽い緊
張感のようなものを感じます。
私がのれんをくぐるのは、もっぱらお酒にかかわるお店ばかりなのですが、オーソドッ
クスなもの、たとえばお店の名前が入ったもの、あるいは扱ってるものの絵があしらって
あるもの、たとえば焼き鳥なら串に刺さったねぎまの絵、居酒屋さんならとっくりやひょう
たんの絵など、そういうのがほとんどですね。でも中にはちょっと気が利いた面白い「の
れん」もあったりします。
転勤で某市で一年ほど暮らしたときの話しです。しらない土地でいい居酒屋さんを見つ
けるのはたいへんなものです。おまけに結構な田舎都市でチェーン店もまだ展開してい
ないとなると、やはり口コミが頼りになります。でもいざ行って見ると、なんか自分には合
わなかったり…。入ろうとしたときが結構いい時刻で「そろそろ看板にしようかと思ってた
んですけどね〜」と店主に申し訳なさそうに謝られて引き上げることも…。もともと個人経
営の居酒屋の営業時刻はけっこうアバウトな面もあるから仕方ありません。
そんなある日でした。会社の同僚と飲んだのですが少し飲み足りなくて二軒目を探す
ことに。その同僚もこの町はまだ不案内なためふたりでさまよっていました。もういい加
減な時刻だし帰ろうかと思ってた矢先にのれんが目に飛び込んできました。大丈夫?
でも飲み足りないし…でふらふらと戸の前まで。
そののれんには『まだまだいいよ』と白く染め抜かれていました。おそるおそる入ったら
「いらっしゃい」と元気な掛け声が。料理の味もなかなか。刺身に焼き鳥、時にはステー
キまでやってくれます。地元で珍しい魚が揚がったときは必ず勧めてくれましたし、その
町を離れるまで行きつけになりました。
ただお店の名前が同じように青地に白く染め抜かれていただけ。そんなシンプルななん
の変哲もないのれん…だけど、なかなか親切な気遣いがちりばめられたのれんです。
でも、ちょっと早めに看板にしたいときなんかはどんなのれんのサインを出しているのだ
ろう? 気になったのですがとうとう聞かずじまいでした。まだあるかなあの店…
急に懐かしくなってきました。