ガラスのれん
あれは神戸から東京に向かってツーリングをしていたときだ。
荷台にはテント一式を積み、のんびりと走っていたボクは、腹が減ってきたのでとりあえず入れる場所で昼食にしようと考えた。(夕食と朝食はインスタントラーメンかパンである)
大通りを外れて、商店街の入り口でバイクを止めた。(もちろん駐輪場に)
鮨屋、ラーメン屋、うどん屋などが雑多と立ち並ぶ商店街で、しかしボクが足を止めたのは、まったく食べ物とは関係のないガラス屋。ガラス屋と言って良いのか、ほかの呼び名ガルの化は知らないけれど、そこはガラス屋である。
すこし汚れた商店街に、その店だけが小綺麗だった。
やや洋風のたたずまい。
しかし、その軒先に垂れたのれんは、純和風だった。藍染めの麻だろうか。白く太い文字で店の号が記されてあった。
洋風の建物に、和風ののれん。それはたしかに自然ではなかく、妙な緊張感を漂わせていた。そしてボクの足はその緊張感故に止まったのだ。
とりあえず店に入る。
ガラス玉、ガラス細工が多い。あやまって落としたりしないように、慎重に歩きつつ、土産用に安い物をいくつかかって丁寧に包装してもらった。(家に送ってもらおうかと思ったのだが、そういうサービスはしていないそうで、郵便局が近くにあるからと言われた)
包装してもらっているあいだ、沈黙が立ったので、のれんのことを聞いてみた。
すると、店主はあれもガラスなんですよ、と言う。
ボクは首を傾げる。
店主は包装し終わった商品を袋に入れながら「ガラスの繊維でつくってあるんですよ。そうは見えないでしょう?」
たしかにと思った。
そうしてから、知った風にこれは藍染めの麻だなどと思った自分が少し恥ずかしくなった。
店主から袋をうけとり、ボクはまたそののれんをくぐって店を出た。
のれんは変わらず柔らかいはずなのだけれど、ガラスだと思ったソレは少しパリパリと透明な音を立てたような気がした。